発酵食品は日本だけのものではありません。世界中の民族が、それぞれの風土と歴史の中で独自の発酵文化を育んできました。韓国のキムチ、ヨーロッパのチーズ、ドイツのザワークラウト——。世界の発酵食品と日本の発酵食品を比較してみると、驚くほどの共通点と、魅力的な違いが見えてきます。
アジアの発酵文化 ── 麹と魚醤の世界
韓国:キムチと「発酵の国」
韓国のキムチは、白菜を唐辛子・にんにく・魚醤などで漬け込み、乳酸発酵させた漬物です。2013年にはユネスコ無形文化遺産に「キムジャン(キムチの漬け込み文化)」として登録されました。
日本の漬物との最大の違いは「唐辛子」の存在です。唐辛子に含まれるカプサイシンには抗菌作用があり、発酵を助ける乳酸菌は残しつつ雑菌の増殖を抑える効果があります。日本の漬物が「塩」と「米ぬか」を中心とした穏やかな発酵であるのに対し、キムチは唐辛子と魚醤のパワフルな風味が特徴です。
東南アジア:魚醤文化圏
タイのナンプラー、ベトナムのヌクマム、フィリピンのパティス——東南アジアには魚を塩蔵発酵させた「魚醤」が広く分布しています。日本にも秋田のしょっつる、石川のいしる、香川のいかなご醤油といった魚醤が存在し、東アジア・東南アジアに共通する「魚醤文化圏」を形成しています。
これらの魚醤はいずれも、魚のタンパク質が麹や自己消化酵素により分解され、アミノ酸豊富な液体調味料になるという共通の原理に基づいています。しかし、使う魚の種類、塩分濃度、発酵期間は地域によって大きく異なり、それが風味の個性を生み出しています。
ヨーロッパの発酵文化 ── 乳と穀物の発酵
チーズ:世界最大の発酵食品文化
ヨーロッパのチーズ文化は、発酵食品の中でも最大級の多様性を誇ります。フランスだけでも400種類以上のチーズがあると言われ、原料乳の種類(牛・羊・山羊)、使用する微生物、熟成方法によって無数のバリエーションが存在します。
日本の発酵文化が「穀物+麹」を中心に発展したのに対し、ヨーロッパは「乳+乳酸菌・カビ」を中心に発展しました。これは、稲作文化圏と牧畜文化圏という食生活の根本的な違いに起因しています。
ザワークラウト:ドイツの乳酸発酵キャベツ
キャベツを塩で揉んで乳酸発酵させたザワークラウトは、ドイツ料理に欠かせない付け合わせです。日本の白菜漬けと非常によく似た製法ですが、使う野菜がキャベツであること、そしてソーセージやポテト料理と合わせる食べ方が異なります。「野菜を塩と乳酸菌で発酵させる」という知恵は、洋の東西を問わず人類が独立に到達した普遍的な技術と言えます。
アフリカ・中南米の発酵文化
アフリカのインジェラ(テフ粉の発酵パン、エチオピア)、中南米のテパチェ(パイナップルの発酵飲料、メキシコ)など、世界各地にはまだ日本ではほとんど知られていない発酵食品が数多く存在します。
これらに共通するのは、その土地で手に入る食材を、その土地の気候条件で発酵させるという点です。発酵食品は、人間と微生物とその土地の自然が共同で作り上げる「風土の産物」なのです。
日本の発酵文化の独自性
世界の発酵文化と比較すると、日本の発酵文化の独自性がより鮮明になります。
- 麹の独占的な使用 ── Aspergillus oryzae を食品に利用するのは世界でほぼ日本だけ。西洋のカビ発酵(ブルーチーズのPenicillium等)とは異なる系統
- 複合発酵の高度さ ── 日本酒の「並行複発酵」(麹による糖化と酵母によるアルコール発酵が同時に進む)は、世界でも類を見ない高度な醸造技術
- 旨味への特化 ── 味噌・醤油・鰹節を組み合わせた「旨味の相乗効果」は日本料理の核心であり、西洋料理の「バター+ブイヨン」とは異なるアプローチ
- 多品種少量 ── 一つの国の中にこれほど多様な発酵食品が存在する例は世界的にも珍しい。47都道府県の発酵食品マップでその多様性をご確認ください
発酵で世界とつながる
発酵食品は、文化や言語の壁を越えて人々をつなぐ力を持っています。日本の味噌ラーメンが世界で愛され、韓国のキムチが日本の食卓に定着し、ヨーロッパのチーズが日本のワインバーで提供される——発酵は、世界の食文化をつなぐ共通言語なのかもしれません。
「発酵の旅人」では、日本国内の発酵食品だけでなく、海外の発酵食品についても順次情報を拡充しています。日本と世界の発酵文化を比較しながら読んでいただくと、発酵の世界がより立体的に見えてくるはずです。